1:脳減圧療法

 

脳神経疾患(脳炎や脳腫瘍、脳出血など)の度合いと部位により脳は病気が起きた場所の浮腫み等により圧迫を受ける事があります。この事を「脳浮腫」と呼びます。それにより押されたところを通る神経の伝わりや栄養を供給している血管の流れが停止し重大な二次的な神経病を引き起こす事があります。それを抑え治る機会を与えるまた被害を最小限に食い止める方法が『脳内減圧療法』です。具体的には脳組織の中で増えて圧迫を起こしている原因の水や血液をそこを通る血管内に吸い戻す点滴(マンニトール、グリセオール、高張食塩水=HS療法)や利尿剤、脳脊髄液産生抑制剤などを用います。高張食塩液は3%食塩水を指し、作成法は(500ml生理食塩水−100ml)+10%食塩水120mlで作ることが出来る。高張とは通常神経科では3〜5%を用いるが例外的に7.5%(100mlにNacl7.5g含有)まで使用可能である。脳浮腫には原因と状態により三種類に大別され、その発生からの経過時間と他の臓器のコンディションによりチョイスする薬品が異なります。

 

高張食塩水(3〜7.5%)←度合いに応じて(重度脳浮腫で自分は7.5%で使用するケースが多い)

3%は生理食塩水40ml+高張食塩水10%12mlで作成。

 1-5ml/kg 5-10分以上かけて投与

投与速度に関しては諸説あるが高濃度ののほど時間をかけること。1ml/kg/min以上の投与速度は守ること本来は3%以上はCVC投与が望ましいとinfo

 副作用:鬱血性心不全、高Na、高CL、酸血症

 

 

2:脳血管療法

 

近年MRIの普及により犬猫にも脳梗塞や脊髄梗塞が発生していることがわかり

治療法も検討されてきています。ヒトでは72時間以内(ゴールデンタイム)の血

栓溶解療法の介入が治療成績を影響するとされています。動物では時間と治療成

績に対する大規模な臨床試験が行われておりませんが筆者の経験では時間も大切

な要素ではありますがそれに加えて詰まりを起こした部位と規模に影響を受ける

事が多いです。またそのゴールデンタイム以降でも治療法はあります。諦めず後

遺症を克服しましょう。筆者はすでに脳梗塞を患ってしまったペット達に対する

ステージごとに向いた低リスク高効果の治療法を提示させていただいております

。また経内頸動脈カラードプラー及び心臓カラードプラーを用いて首を通る脳に

酸素と栄養を送っている血管を超音波で描出する事と血液凝固系検査による脳血

栓予備軍の動物達に対するアプローチに積極的に取り組んでおります。

 

3:脳免疫抑制療法

 

脳神経も全身臓器と同じくさまざまな原因で炎症を起し、その部位や原因によっては時に命を脅かす事もあります。そしてそこには原因とそれを抑制しようとする体に備わった免疫システムがあります。病原体などの感染性が原因である場合、その病原体を抑えために機能する免疫が逆に過激に働きすぎてしまう事があります。また免疫機能そのものが自分の体に攻撃を仕掛ける自己免疫疾患も脳でも起こります。そこでその免疫の働きの加減を調節する方法が脳神経免疫療法です。ある種の非感染性脳脊髄膜炎においては自己抗体が見出されておりそれらの制御も病態管理に重要であると考える。

 

以下に代表的薬物の一部を紹介する。

・プレドニゾロン

 プレドニゾロンは用量によって炎症を抑制し、高用量を用いると免疫細胞を抑制する。2ndラインの免疫

 抑制剤を使用して3週間状態が安定したら25%ずつ投与量を漸減する。これはステロイドに関連がある副作

 用の抑止のためでもある。通常は3-6ヶ月は漸減に時間を要する。

 

Cyclosporine(アトピカ3-5 mg/kg/bid サンデミュン注3-5 mg/kg/dayDHEP溶出注意)

  T細胞活性阻害薬。主にヘルパーT細胞に作用し、IL-2の産生を抑制することにより免疫抑制作用を表すポリペプ

  チドで、用量はいろいろな報告があるが、3-5 mg/kg/bidで投与するが固体差があり、通常血中濃度を測定し

  200-400 ng/mlくらいで維持するのが理想.毒性は腎障害。定期的なクレアチニンのモニターが必要である。人の

  IHAの治療ではプレドニゾロンとダナゾールの併用療法に比べてシクロスポリンを加えた3剤による治療では寛解

  率は明らかに高く、再発率は低いと報告されている。人の最近のAAPRCAの治療はシクロスポリンと抗胸腺細

  胞グロブリン(ATG)の併用やそれにG-CSFを加えた治療が行われている。脳疾患時のカルシニューリンインヒビタ

  ーとして人医療で注目されはじめておりその効果はあるレポートによれば神経細胞壊死抑制効果100%、タクロリ

  ムスは50%である。静脈注射使用時は可能な限りゆっくり使用すること。使用に際してはテルモのDHEP溶出に配 

  慮した持続点滴セットを使用する。別データによると510mg/kg/dayを分割投与

  CSA血中濃度を上昇させるもの

    抗生物質・・・エリスロ、クラリスロマイシン、イミペネム

    抗真菌剤・・・ケトコナゾール、フルコナゾール

    抗不整脈薬・・アミオダロン

    アンドロジェン・・テストステロン、ダナゾール

    Ca拮抗薬・・・ジルチアゼム、ベラパミル

    制吐剤・・・メトクロプラミド

   →CSA血中濃度を低下させるもの

    抗生物質・・・ST合剤

    抗真菌剤・・・テルビナフィン

    高脂血症治療薬・・プロブコール

    消化管潰瘍薬・・・オメプラゾール

    抗てんかん薬・・・PB、フェニトイン

   →CSAの腎毒性を増強させる

    アミノグリコシド

    アンホテリシン

 

ミコフェノール酸モフェチル10-20mg/kg BID

 

・レフルノミドLeflunomide最初4mg/kg.sidで投与し、それから20μg/mlの血漿レベル)

 

この薬は免疫調整剤で脳炎の犬に対して予備的研究として用いられた報告がある。投与開始後12 カ月以上生 

存したとのこと

 

シトシンアラビノシド(Ara-C)(50mg/㎡ bid sc 2日間→以降)

 

 プレドニゾロンと併用することが多い。50mg/㎡ bid で数日間皮下注射し、3

 

 週間置きに繰り返す方法が報告されている。初回投与終了後1014 日後にCBC をチェックし骨髄抑制の有無  

 を調べる。2クール目のAraC 投与後からプレドニゾロンを漸減する。

 

・CCNU

 これらの薬剤の特性は他の抗がん剤に比較して脂溶性が高く、血液脳関門の通過性が優

 

れる。高い脂質親和性から経口投与での吸収率も高く、便利である。吸収後、抗腫瘍物

 

として代謝される。ロムスチンのCNS通過性は血漿1:CSF3であることからもわかる。

 投与量:6080mg/m² PO q6-8weeks(Fulton and Steinberg 1990)

主に骨髄抑制。人で最下点4-6weeksで回復はゆっくり。

              犬では最大の影響は一週間で出る。

              猫では最大の影響は3-4weeksで発生する。

 

              累積性の薬害もあり血小板減少症が出ることも

 

サイクロフォスファミド(エンドキサンP2 mg/kgもしくは50mg/m24回/週内服)

 

  アルキル化剤に分類される化学療法剤で主に液性免疫を抑制する。用量は2 mg/kgもしくは50mg/m24回/週

  内服、または10mg/kgもしくは250mg/m21回静脈内注射する。毒性は骨髄抑制で投与後10-14日目にみられ

  る。慢性毒性として出血性膀胱炎がある。 

 

アザチオブリン(犬;イムラン2mg/kg SID-BIDを連日、次いで0.51mg/kg q48h、猫;1mg/kg隔日に内服投与)

 

  代謝拮抗薬。代謝されて6メルカトルプリンになる代謝括抗剤でDNA合成(S期)を阻害する薬剤で主に細胞性免 

  疫を抑制する。通常犬は2mg/kgを連日、猫は1mg/kg隔日に内服投与する。毒性は骨髄抑性と肝臓障害で長期 

  投与する場合は肝酵素のモニターが必要。

 

プロカルバジン(25 50mg /㎡/day po 30日後 eod

 

抗腫瘍薬であり、プレドニゾロンと併用、あるいは単独で使用する。薬用量は25

 

 50mg /㎡/day po で、やはり骨髄抑制が起こる可能性があるため、最初の1カ月はCBC を週1回、その後は月

 1回行うことが望ましい。また、出血性胃腸炎、嘔吐、肝不全が報告されている。生存期間の中央値は15 カ月。

 

4:脳内物質療法

 

ヒトや動物が動作や行動を起こす時、また睡眠など日常生活を送る上で必要不可欠であるのがアドレナリン等で知られる脳内物質です。脳疾患ではそれにより引き起こされる障害によって脳内物質が乱れ、様々な異常がおこります。それらは血液検査などで判断することが現段階ではできないため、神経学的検査法等を通して推定される乱調の原因物質に対しアプローチします

 

5:その他のアプローチ
-TCD(経頭蓋カラードプラー法)
-大腰筋筋溝ブロック
-坐骨神経ブロック
-内頸動脈超音波ドプラー法
-IVIG(ヒト免疫グロブリン静注療法)
-EAT(低周波鍼通電療法)
-MPSSパルス療法
-カクテルパルス療法
-髄鞘シーリング療法
10-副交感神経刺激薬療法
11-β-adorenalin受容体遮断薬療法
12-脳代謝抑制療法
13-神経Ca chanel療法
14-脳循環改善薬療法
15-脳酸化障害抑制療法
16-各種     療法
17-神経機能改善薬療法
18-AEDs(抗痙攣薬療法)
19-抗コリン薬療法
20-BBB療法
21-3H療法
22-多種抗精神病薬療法
23-ハイドロキシウレア療法
24-MTX療法
25-IFN療法
 

 


MG

神経筋接合部疾患(NMJ:neuromuscular junction)抗体産生に関連しない先天型(受容体そのものが少ない)とアセチルコリンレセプターに対して抗体が産生された後天型の二つがある。
先天性は犬でスムースヘアードフォックステリア、スプリンガースパニエル、サモエド、ジャックラッセルテリア、猫ではシャムネコ。猫の先天性は通常6ヶ月未満で発症する。運動不耐症、挿間的筋力低下(短時間にたびたび症状が出る)
後天性は分かってないが様々な腫瘍(胸腺腫、胆嚢癌、骨肉腫など)に続発して発生。腫瘍とNMJの共通抗原が原因とされる。猫では後天性はアビとソマリが多い。


全身性で筋力が低下し歩幅が短くなる。後弯姿勢。悲しげな表情、流涎、尾はしばしば挙上を維持している。
局所性で巨大食道のみ。咽頭部の筋群が侵されるゼイメイ、上部気道吸気困難。

猫で、歩くとばたりと座位または伏臥位で休息しだす。休息をとると症状は改善する。硬直した竹馬様歩行が筋力低下に先行してみられる。眼瞼反射の低下や眼瞼裂の狭小化。巨大食道は非常に稀。

診断
・テンシロンedrophonium検査
 テンシロンは抗コリンエステラーゼでありを投与することによりNMJにアセチルコリンを増加させる。犬0.1-0.2mg/kg、猫0.25-0.5mg/cat。
実施に際しては呼吸筋の筋力低下を起こすことがあるので必ず気管チューブとベンチの準備をしておくこと。
欠点は特有ではなく他の下位運動ニューロン性疾患も改善するから分からないことがある。
副作用:ムスカリン受容体刺激や筋力低下の症状の増悪。唾液分泌、排尿排便の増加。

・抗アセチルコリンr抗体検査
 後天性でのみ有効で最も優れた検査。偽陰性は後天性では稀。先天性では抗体は存在しない。

治療
①抗コリンエステラーゼ
先天性、後天性いずれも長時間作用型抗コリンエステラーゼ(ピリドスチグミン:pyridostigmine)0.5-3mg/kg q8-12h PO。開始は低用量で効果が出るまで増量。猫は犬より感受性が高いのでより低用量で開始した方が良い。

副作用:流涎、多尿、多排便、虚弱。
→コレらがみられたらピリドスチグミンが少なすぎるかor多すぎる。→テンシロン(edrophonium)検査をしてみる。反応(改善)があったならピリドスチグミンを増量してみる。→テンシロンで悪化したらピリドスチグミンによる毒性と捉えピリドスチグミンを減量するべき。  

②ステロイド(後天性の場合なら)
コルチコステロイド1-2mg/kg BID免疫抑制量。
他の免疫介在性疾患にも効果がある。
低用量から開始し、1-3weeks見てみる。どの用量が効くか最低用量を探す。症例によっては重症筋無力症の症状が消失し、ステロイドを中止できる例もある。

③巨大食道の薬剤療法
・メトクロプラミド
・高い位置からの給餌

④誤嚥性肺炎の薬物療法
・BALに基づいた抗生剤療法
・酸素吸入
・噴霧療法
・coupage

治療反応と予後
反応は犬の方が猫より良い。