【脊髄空洞症とは?】
脊髄空洞症とは犬の脊髄系に発生する液体貯留により生じる脊髄障害である。別名水脊髄症(Hydromyelia)とも呼ぶ。
16世紀にStephanusにより脊髄内の空洞の報告がされており、1824年、Olivier d'Angerがこの病名を初めて用いた。
人医の領域では多くの研究が進んでいるにも関わらず発症メカニズムなど不明な点も多く、未だ治療法も確立していないため難病指定されている。
動物では1965年Gardnerにより犬での脊髄空洞症の報告がされたのが最初である。この当時は剖検で診断されていたが、近年小動物医療におけるMRIなど画像診断の進歩と共に生前での診断が可能となった。犬では検査でたまたま発見される事も多く、無症状または軽症のケースも多い。
【原因は?】
原因は様々であるとされ、いつ脊髄内に水溜りが形成されたの時期により生まれながらにもつ『先天性』と生まれてから以降形成される『後天性』に分かれる。
先天的に小脳が脊柱管内に変位している(ヒトのキアリ奇形と同様に)事により大後頭孔部狭窄による髄液の循環障害により生じる事もあるとされるが、その様な小脳の変位を伴わないにもかかわらず脊髄空洞症が形成されている事。これらの小脳の変位を伴わないケースで後頭骨と環椎と軸椎の奇形により小脳の尾側が骨により圧迫され髄液の循環障害を起こすとされている。これらはCOMS(後頭骨尾側部奇形症候群)と呼ばれる。※ヒトで見られるキアリ奇形は小脳の脊柱管への下垂変位を伴う点でCOMSと異なる。
【どのようにしてできる?】
ヒトの空洞症は
①頭蓋内から脊髄くも膜下腔への脳脊髄液の循環が阻害され、頭蓋内圧上昇によって頭蓋内と脊髄内圧に較差が生じ、これにより脊髄中心管内に脳脊髄液が流入して脊髄中心管を拡張させるという仮説(GardnerやWilliamsら)
②脊髄くも膜下腔から頭蓋内への脳脊髄液の流れが阻害された時に、脊髄くも膜下腔における圧が上昇することで脊髄実質を圧迫して形成するという仮説
(Aboulker.Ball.Dayanなど)
【好発犬種などは?】
キャバリアキングチャールズスパニエル
ミニチュアダックスフント
ヨークシャテリア
ポメラニアン
トイプードル
シーズー
フレンチブルドッグ
ボストンテリア
【症状】
解離性感覚障害(温痛覚障害という触覚や深部痛覚は障害されない)、頚部や体幹部の引っ掻き行動、肢端を舐める、仰向けになり背部を床に擦り付ける行動。まれに疼痛を示すケースもある。その場合、身体を触られるのを嫌がったり音や振動に敏感になるなど痛みの部位がハッキリとしない症状がある。頚部側弯症は特徴的な症状であるが発生頻度は非常に低い。重度で四肢の不全麻痺が出る事がある。重度で小脳圧迫による捻転斜頸、続発性水頭症による脳症状(痙攣、意識レベルの低下、性格の変化、てんかん発作、旋回や痴呆様症状など)や脳神経症状(捻転斜頸、顔面神経麻痺、斜視、乾燥性角膜炎)、脊髄症状(頚部痛、知覚過敏、異常な掻痒、一部筋攣縮、側弯症、ふらつき、軽度運動失調、不全麻痺)が起こりうる。
【進行はするの?】
する場合としない場合とゆっくりと進むケースがある。様々です。
【どうやって診断するか】
血液検査、神経学的検査法、MRI、脳脊髄液検査、を実施します。
◉MRI
【治療法は?】
犬の脊髄空洞症は無症状から歩けなくなるまで様々で、また進行するものと変わらないものまでありますので状況により治療法を決めていきます。現代獣医療においては完治につながる治療法は確立されていない現状でありますので、症状を抑えていく治療が主体となります。治療は現在症状がない(無症状)と症状あり、進行有無により決まります。進行の有無は経時的MRIにより1回目の画像とそれ以降の画像を比較して空洞部の拡大の有無で評価します。
症状がある子の場合、
1️⃣鎮痛剤
・リマダイル
・メタカム
・ガバペンチン
2️⃣脳脊髄液産生抑制剤
・炭酸脱水酵素阻害薬
・プロトンポンプ阻害薬
3️⃣利尿剤
・イソソルビド
・フロセミド
3️⃣ステロイド剤
により治療反応を見る。
これらの反応が悪いケースは空洞-くも膜下腔短絡術(S-Sシャント術)、また脳室拡張があるケースでは脳室-腹腔シャント術(V-Pシャント術)を検討する。しかしながらシャントチューブも閉塞による再発や感染症合併などの可能性から確立された治療法とは言えない。