心タンポナーデ

心臓は周辺臓器と心嚢膜という膜で隔絶されている。これは動くうえでほかの臓器の影響を受けないようにするためである。また心臓と心臓の周辺を包む心嚢膜の間には心嚢液という液があり、心臓の動きを円滑に保つ潤滑油の様な役割を果たしている。この心臓と心嚢膜の間に心嚢液が過剰に溜まってしまう病気が心嚢液貯留『シンタンポナーデ』である。過剰に溜まった心嚢液は周辺から心臓を圧迫し、心臓を動きにくくし、危機的血行動態を招来し、重度なると動けなくする(すなわち心停止を招く)。

原因

1;腫瘍性疾患

  血管肉腫、中皮腫、大動脈小体腫瘍、リンパ腫、転移性乳腺癌等

2;感染性心膜炎

3;特発性

4;心房破裂

  外傷や重度弁膜症

5;異物穿孔

6;大動脈瘤

診断

A;聴診

   心音微弱、頻脈

B;触診

   頸静脈怒張、奇脈

C;心電図

   R波低電位、頻脈、電気的交互脈(心拍毎に電位が変わる)

D;レントゲン画像診断

   ボール状心陰影 (心拍のアーティファクトを受けないので明瞭な輪郭の心臓)

   肝臓腫脹+腹水+胸水+後大静脈拡張(←鬱血性右心不全の影響) 

E;超音波画像診断所見

   EFS(エコーフリースペース)増加

   肝臓腫脹+腹水+胸水(←鬱血性右心不全の影響)

治療

Ⅰ:心タンポナーデに対する戦略

 A:心膜穿刺術(右側肋軟骨結合部アプローチ)

  1:鎮静が必要であれば鎮静し、気管挿管し、心電図モニターを装着する。

  2:左下横臥位に保定

  3:心臓の拍動の触知が可能な部位に超音波を当て、穿刺部位を特定する(通

    常第5-6肋間)。

  4:穿刺予定部位を剃毛消毒する

  5:外科用メス(No11)で皮膚小切開する

  6:超音波ガイド下で皮膚から胸壁に向けてなるべく垂直に留置針(筆者は2

    2Gを愛用している)

  7:心膜穿孔の感触を得ると心嚢液がカテーテル内に流入してくる。超音波で

    確認しながら心筋に接触しないレベルまで針を進め、内筒を抜く。

  8:延長チューブにジョイントし、シリンジで液体を吸引する。

  9:超音波で確認しながら可能な限り吸引し、留置針を抜き、動物が覚醒した

    ら気管チューブを抜き、40%酸素室(ICU)へ搬送する。

 B:経皮的バルーン心膜切開術

 C:開胸下心膜切除術