1MSC療法(間葉系幹細胞)

MSCという幹細胞は1999年に発見されその治療における有益性が明らかになってきた。

中胚葉系組織に由来する体性幹細胞。
多分化能を有する。(骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞になれる)。

外観は線維芽細胞に似ている。
主に骨髄、脂肪組織、歯髄、滑膜、臍帯血といった様々な組織から採取でき、培養もできる。
主に脂肪組織由来MSCs(AD-MSCs)が良く用いられる。
主な仕様用途は分泌される液性因子による抗炎症作用や免疫調整作用である。
獣医領域では椎間板ヘルニアや外傷性脊髄損傷、変形性関節症、骨折などの報告がある。また免疫介在性多発性関節炎、乾燥性角結膜炎、アトピー性皮膚炎、慢性腸症、肝炎、膵炎、IMHA、ITP、再生不良性貧血、糖尿病、CKD、AKD、喘息などにMSC療法が用いられている。

期待できる効果は
・幹細胞による細胞の置換(損傷を受けた部位に幹細胞が定着し、その組織が再生する現象)
・幹細胞由来の液性因子による組織修復効果(パラクライン効果)=細胞の出す因子で炎症等が抑制されたり組織が治る現象
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ではパラクライン効果とは?
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)
上皮成長因子(EGF)
塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF、FGF2)
肝細胞増殖因子(HGF)
トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)
神経成長因子(NGF)
脳由来神経栄養因子(BDNF)
コロニー刺激因子-1(CSF-1)
インスリン様成長因子-1(IGF-1)
間質細胞由来因子-1(SDF-1)
抗炎症サイトカイン
など幹細胞から分泌される成分が損傷患部に対し抗炎症、脊髄保護効果を発揮することとされる。

細胞はどのように効果を発揮するのか?
生体に投与されたAD-MSCsは肺に一時的にトラップされ、そこから損傷炎症部位にホーミング(移行)するとされる。また肺にトラップされているAD-MSCsから出る液性因子により上述のパラクライン効果が発揮され患部への抗炎症作用や組織修復が液性因子により行われる場合もある。概ね一週間程度で投与された幹細胞は体内から消失する。



この治療法は免疫を抑制しうるため、感染症や腫瘍のような疾患には用いない。



→犬における臨床応用

適応は 
・炎症性疾患 
・臓器疾患
・組織損傷
・自己免疫性疾患
に分類されるもの全体である。 

下記では各論について記載する。

○急性脊椎損傷
方法:AD-MSCsを静脈投与

結果:回復率
  減圧術のみ→回復率16%.
  AD-MSCs全身投与→55.6%
       AD-MSCsの局所投与→追跡出来た例で全例
  減圧術後2週間以上改善がない症例→84%でTSCISを有意に改善

考察:現段階では生体へ投与されたMSCが定着して神経細胞に分化している証拠は示されていない事からMSC投与による脊髄損傷治療効果はパラクライン効果ではなかろうかと考えられている。またある研究の結果、通常のステロイド療法は脊髄のミクログリア浸潤を減少させる事が出来ないとされるが、AD-MSC投与後有意に減少する事がわかった。

○自己免疫性疾患

○急性肝炎
対象:高熱、嘔吐、下痢、食欲廃絶ALT>1000U/L、ALP>2000U/L、CRP19mg/dLが見られる原因不明急性肝炎と診断された犬。静脈輸液を中心にステロイド、UDCA、ABPC、PPなどを用い3日治療するも改善がなかった症例。
方法:AD-MSCs静脈内投与 1週間おき 4回
  用量1×10の6乗/kg

結果:投与2日後から改善。

考察:MSC両方適用後に大きな改善が見られた事から本治療法が患者の改善に何らかの機序で貢献した可能性。肝炎や肝障害に対する投与は犬モデルで超音波ガイド下脾静脈投与において通常の静脈投与より大きな改善を示したとの報告がある。

○腎不全

○乾性角結膜炎(KCSドライアイ)
対象:STT2mm/min(基準値>15mm/min)
  涙液層破壊時間TBUT2sec(基準値>10sec)
方法:AD-MSCs静脈内投与 1週間おき 
  用量0.3-1×10の6乗/kg

結果:涙液産生量や臨床症状を有意に改善

考察:涙腺組織の炎症抑制、修復によるものの可能性。人シェーグレン症候群の腺分泌障害に対するMSC療法の効果に類似と考察。涙液産生量がゼロに近い子は反応が厳しいと思われる。他の方法としてMSCのKCS罹患眼涙腺近傍への直接移植や点眼投与が研究され良好な成績である点からそれらを用いることも検討する価値がある。