誤嚥性肺炎は,飲み物や唾液や食事そのもの、胃液が何らかの原因で誤って気管に入ってしまうことにより引き起こされる肺炎です。元々口から喉さらにその奥に行くと食道という食事を胃に送る道と、呼吸による空気を肺に送る気管に分かれています。通常嚥下は食べ物や飲み物が口に入り喉を通過する時に気道の入口を閉じ、食道に食べ物や飲み物を送るようにできています。
このシステムが何らかの不具合により食道に入るべきものが気道に入ってしまったあと肺炎へと移行する事があります。人間では誤嚥性肺炎は加齢というイメージがありますが動物でも加齢により喉の機能が衰え食道に送るべきものが喉にうっ滞し誤って気道に入ってしまうことによって生じる事があります。また動物ではしばしば嘔吐や吐出といった吐き戻し現象により誤嚥が生じます。
誤嚥と聞くと誤嚥性肺炎をすぐイメージしがちですが誤嚥により誤嚥性肺炎が必ずしも発症するとは限りません。気道には免疫機能があり咳の反射により吐き出したりまた気道表面にある絨毛というミクロな毛と粘液により再度喉に戻されます。
誤嚥性肺炎は誤嚥した異物(食事)や唾液や胃液がこれらにより対処できず肺の中に入り誤嚥物に含まれる成分(胃酸、食物、口腔内細菌等)により炎症を起こしたときに発生します。
【原因や誘因】
①pHの低い誤物による化学性肺炎
②大量の中性液体による侵濆
③粒子による炎症と小気道の閉塞が起こり得ると考えられています。
これらをふまえると,誤嚥による感染性肺炎が成立するまでには3つのステージがあると考えられています。
誘因としては
A加齢やある種の神経疾患による嚥下反射(飲み込み)の障害
B食道疾患による口腔内への消化液や食物の逆流
C嘔吐による誤嚥
D喉の腫瘍
E咳反射が弱くなる疾患がある場合
F全身麻酔
G強制給餌やチューブ栄養
H短頭種
があります。A~Dにはそれぞれまたそれを引き起こす原因があります。考え方としては『原因疾患→A~H→誤嚥→誤嚥性肺炎』という考え方となります。治療に際してはこれらがどの原因から引き起こされているか評価する事が重要と考えています。
また原因となる菌は肺炎を起こす菌、口腔内雑菌が関連し、口腔衛生が悪い場合は口腔内で増殖しやすく誤嚥を起こしたときに誤嚥性肺炎へ移行する可能性が高むなります。
【診断】
診断は主に迅速なレントゲンによる肺炎像と血液における炎症所見(白血球増加またCRP上昇)で診断します。
そしてその肺炎は誤嚥が原因で生じているかどうかを判断します。
●身体検査
呼吸様式の異常(頻呼吸や呼吸困難,努力呼吸)、発熱などが見られる事が多いです。
胸部聴診で必発ではないがクラックル(捻髪音)などが聴取される。
●血液検査
誤嚥性肺炎の症例での血液検査で白血球増加を認めるが正常な症例にも遭遇します。炎症マーカーであるCRPはとくに感染が成立していない初期は正常と出ることも多いですが、細菌の感染が顕著となる場合に上昇する可能性が高いです。
●レントゲン検査(3方向撮影)
誤嚥性肺炎の診断に不可欠な検査です。。
犬での好発部位は胸部レントゲンで右中葉と左右前葉であり、誤嚥性肪炎の動物で1葉以上に病変が形成されることが多いです。
この検査の欠点は呼吸状態の悪い動物の体位を変えるリスクです。
●エコー検査
肺エコー検査は体位を変えることなく起立状態で実施することができる点か長所です。誤嚥性肺炎では右中葉と左右前葉のB-lineやConsolidation とくに腹側領域を中心に認められる場合は、X線検査で異常がない場合においても誤嚥性肺炎を疑います。
●血液ガス検査
動脈血による血液ガス分析は酸素室管理の必要性または処置中の効果測定に有益で、ICUでの酸素投与または気管挿管による人工呼吸による陽圧換気の必要性を判断するのに役立ちます。
●気管支肺胞洗浄
気管内に液体を入れて回収したものから細菌培養を実施したり細胞成分の分析を行う事でどのようなタイプの肺炎か判断するために実施する検査です。
誤嚥性肺炎では、好中球という炎症性細胞が多く検出されましす。しかしながら、この検査は全身麻酔での検査となるため,呼吸状態および全身状態の悪い時期には適していないため適切な検査のタイミングと必要性を考えるべきです。
【治療】
誤嚥性肺炎では原因菌に対する抗菌剤療法が基本となり、それに輸液療法、呼吸状態により酸素室治療を行います。
順番は個々の呼吸状態により順番が変わることがありますが流れとして以下のようになります。
・来院、問診
⇩
・お預かり処置開始
⇩
急性期治療の開始
・フェイスマスクで酸素化しながら
⇩
・点滴の針を挿入
⇩
・点滴および抗生剤療法開始
⇩
・ICU酸素室or麻酔気管挿管下人工呼吸管理
⇩
・経時的血液検査、画像診断検査による評価
⇩
急性期以降の治療
・数日で改善してきたら在宅で服用治療
⇩
・定期チェックで改善を確認します。
以下治療各々の説明です。治療は急性期とそれ以降で異なります。
〇急性期の治療
1.抗菌薬投与
誤嚥性肺炎は通常緊急搬送されてくる事が多く、命にかかわる病気ですので、細菌培養検査を実施してから抗生剤を選択するといったいとまが無いため、まずより何でも効きそうな抗生剤を選択するといった現実的安全策を講じます。投与期間は呼吸状態が良くなっても少なくとも2〜4週間は投与を継続しモニターします。臨床徴候や画像所見、血液検査所見(白血球数やCRP)が改善しても1週間は投与を続けましょう。
2. 酸素療法
酸素が生体に不可欠なのは言うまでもないですが、誤嚥により生じた肺炎は悪化すると肺から血液への酸素供給の不足を引き起こし、生体は炎症で不器用になった肺でもなんとか酸素を賄えるように呼吸回数を増やして補うようにするがそれでも酸素がまかなえないと臓器に異常を起こし、さらに普段より高頻度に呼吸する事で呼吸筋が疲弊してしまいます。
酸素療法には簡単に二種類あり①ICUのような酸素室②気管挿管による人工呼吸管理(麻酔必要)となります。この二種類は血液ガス濃度や呼吸様式、SPO2を測定し体の酸素の不足が無いか、呼吸の疲弊がないかにより決定します。
3. 輸液療法
輸液療法の必要性に関しては誤嚥時にピンとこない方が多いかもしれません。簡単に説明すると誤嚥を起こす疾患をもっている背景のある動物たちは戦時ア的な脱水により循環血液量が減っている事にその理があります。脱水が緩和されることにより気道粘膜表面の粘液も正常に働くようになるためでもあります。
※気管支拡張薬は誤嚥後の気管支の収縮を緩和し呼吸状態をわずかではあるものの改善させ得ます。特にβ作動性気管支拡張剤は気道粘液の分泌を産生する事により、気道内の物を粘液とともに気道の外への排泄を促進します。しかしながら咳が抑制されてしまったり気道内腔圧が広がることにより咳により出しにくくなる可能性もあるためこのため、血液ガス濃度や個々の状態毎に判断をするべきと考えるにとどめております。
※※特殊なケースとして誤嚥性肺炎から急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重篤な状態に至ってしまった場合、エラスポールという薬を使用するケースがございます。
1~3を行いながら基礎疾患のような誤嚥を起こしうるバックグランドがある子か否か検査していくことが重要です。
〇急性期以降の治療(急性期を乗り越えたら)
4.抗生剤療法
抗生剤は症状緩和後もすぐに投薬を打ち切らず、目安として2~4週間は継続をおすすめしております。
5.ネブライザーの検討
6.咽頭吸引機の使用
7.原因疾患の治療