腎不全

 はじめに

腎不全と診断されたかたはビックリされている方が多いと思います。

 

腎不全という病気を理解治療していく上で以下のポイントを押さえておくことが必要です。 

  • 腎不全は治る病気ではなく維持する病気である事
  • 腎臓は70%が機能しなくなり初めて数値が上がる。
  • うちに子はどのstageの腎不全なのか
  • うちの子の腎不全は急性か慢性かどちらか

ひとことで腎不全といってもその子その子のステージにより付き合い方がかなり異なります。
我が子が今腎不全のどの辺りにいるかを正確に知る事でその付き合い方、対処法もはっきりと見えてきます。まず『原因が〜による〜性腎不全ステージ〜』を把握することが大切です。なぜならそのステージというものでやるべき事が変わってくるからです。それを把握した上でどの様にうまく維持すれば良いか一緒に考えていきましょう。

 腎不全 とは】

腎臓は文字通り腎臓が悪くなった状態の事を言います。腎臓の働きは

①老廃物を体外に出す

②体の水分調節

③体液の調節(重炭酸の再吸収など)

④赤血球という血液を作る

⑤骨を保つ

⑥血圧管理

です。

腎不全は腎臓が悪くなることにより体内で不要になった老廃物や毒素を尿という形で体外に排泄する事などが上手に出来なくなります。それにより毒素が体に蓄積していき問題が生じます。重度になると尿毒症と呼ばれる症状を起こします。

腎不全は正常な腎機能の3/4(75%)が失われると起こります。

 

【原因】

 

腎臓によくない毒物摂取や腫瘍、感染症により悪い菌やウイルス等の病原体が腎臓を壊したり、結石等で尿の流れが滞ったり、血圧が保てない状態が続いたりすることが原因であることが多いです。また口腔内の歯石の菌毒素が原因になる事もあります。また人同様、糖尿病や高血圧も腎機能障害の原因となることもあります。

猫の場合で特殊なケース(発生率は0.1%程度)ですが遺伝性多発性嚢胞腎という遺伝性疾患が知られており、PKD遺伝子変異に伴う疾患があります。この病気はペルシャ系またはその交配種で若齢から徐々に進行し、通常に比べて早期に腎不全となります。


【悪化要因】


年齢、高血圧、蛋白尿、感染症、ホルモン病、種特有の遺伝性、心疾患



⇒この【原因】×【悪化要因】が重なり合いながら進行する病態です。






 

【症状】

 

①老廃物が溜まる・・・消化器症状(嘔吐、下痢、食欲不振、口内炎)、倦怠感、神経障害

②体の水分調節・・・・多尿からの脱水、血液のめぐりが悪くなる。むくみ等

③体液の調節・・・・・口の渇きや手足のしびれや嘔吐、頻呼吸、蛋白質エネルギー代謝障害

④赤血球という血液を作る・・・貧血(ふらつき等)

⑤骨を保つ・・・・・・骨折等

⑥血圧管理・・・・・・高血圧

 

 

 

 腎不全の分類】

 

A:腎不全は経過によって急性期慢性期に分けられます。

簡単に表現するといきなり始まったものは『急性』、前々から徐々にというのが『慢性』です。

後に出てきますがこの2つは治療法が異なります。理由は残っている腎機能の量の違いにあります。

 

急性と慢性の腎不全の鑑別は全身状態(毛のコンディション等)や各種検査をチェックを行いながら判断します。

 

B:次に急性期はその原因となる(腎不全の起こる場所)により

①腎前性腎不全

②腎性腎不全

③腎後性腎不全

に分けられます。

簡単に解釈するとするなら異常が腎臓そのものからスタートしている場合が腎性腎不全、腎臓に入ってくる血管の血流(心臓や血流量低下に原因がある場合)などに問題が生じ腎臓に影響があった場合が腎前性腎不全、腎臓を出て尿の排泄経路等に異常がある事から腎臓に影響が起きたものを腎後性腎不全と分類します。

 

この分類AとB(急性期か慢性期かor腎前性か腎性か腎後性か)は治療法や治り具合が異なるワードなので頭に入れておいてほしいです。かかりつけ医に腎不全と診断を受けた時に~性腎不全か、慢性ならステージいくつか確認しておきましょう

 

ではどのような症状が出うるか。上記の【症状】で触れましたが、具体的に急性期と慢性期でやや異なります。

⚫︎急性腎不全では度合いによっては多尿になる事もあります。しかし急速に腎臓が障害される事から尿を作らなくなり(乏尿)、毒素が急に体にたまりだすことにより食欲不振、吐き気、嘔吐がみられ、腎臓がショックを起こしさらに尿を作れなくなると乏尿または無尿になり本来身体から腎臓を通して体外に尿として排泄しているカリウムが体に蓄積して致死的状態になるので注意が必要です。


http://www.iris-kidney.com/pdf/4_ldc-revised-grading-of-acute-kidney-injury.pdf


⚫︎慢性腎不全はステージ1~4(IRIS)に分類されていて各ステージで症状が異なります。

ステージ1は40-50%の腎臓機能が残っているため基本的には無症状です。

ステージ2はよく水を飲み、尿も多くなります。

ステージ3は食欲が落ちたり、嘔吐、体重減少、貧血等が出始めます。

ステージ4は一番危険な状態で嘔吐や痙攣がメインです。

 

      

【診断】

腎不全を獣医師がどのように診断しているかという話にうつります。難しい部分やワードもありますのでなんとなくどんなことをしているか頭にいれてみてください。

 

どのように腎不全と診断するかと言うとその子の全身状態や症状から疑い、排泄されるべき老廃物が血液中に漂い増えているかを血液検査で確認します。

🟤血液検査

 血液検査を実施する事で、概ねのその子の腎機能の目安をいくつか測定し、腎不全か否か、そしてその度合いを数値的に把握することができます。

  • 血球計算・・・炎症により白血球が上がってないか、腎不全により貧血を起こしてないかなどを確認します。
  • BUN.Cre.P.NaKClなど
  • SDMA・・・早期腎マーカーでBUN.Creが上昇してこないレベルの早期腎不全を検出可能です。
  • シスタチンC・・・こちらも早期マーカーの一つで年齢、食事、筋肉量の影響を受けることなく早期腎不全を検出できます。
  • FGF23・・・腎臓が悪化するとリンの代謝異常を起こしますが、血液検査でリンが上がってくるのはかなり進行してからです。FGF23は早期リン代謝異常マーカーで食事療法の介入の目安となります。
  • 酸塩基平衡・・・進行した腎不全において体液をアルカリまたは酸性にコントロールすることができなくなる事があります。酸塩基平衡を確認することで点滴療法を効果的に行う参考となります。
🟤尿検査
 尿は血液から作られて腎臓で濃縮され体外に排泄されます。その尿を検査することで、腎臓がどのくらいの濃縮能力を残しているか、濃縮する力は衰えていないか、体液に必要なものが漏れ出ていないか、尿中に結石や腎臓を蝕む細菌が尿中にいないかの確認をする事で腎臓の力や異常をきたしている原因があるかを血液で分からない部分を確認出来ます。
  • 尿比重
  • 尿蛋白
  • 細胞検査
🟤画像診断
 画像診断でわかる事は多くあります。
腎臓を壊す病気には老化のようなものもあれば病気が原因であることがあります。超音波画像診断は目に見える病気(腫瘍や結石や腎臓の水溜りなど)またはそうでないもの(特発性や老齢性など)を判断する検査です。
腎疾患は原因が何であっても破壊がある程度進行すれば血液検査での数値は上がります。ただし血液検査などでは腎臓に異常があるよというところまではつかめてもその原因を特定はできません。そのため画像診断で腎臓の形を外から見てあげる事で確認できます。仮に炎症や腫瘍、尿管結石などであれば直ちにそちらの治療を行う事が腎臓の救済策となりえます。
  • 超音波画像診断
  • レントゲン画像診断
  • CT
 
説明いたしました血液検査+尿検査+画像診断を総括して『原因が〜の、どのくらいのレベルの腎不全』と診断してその子にとって適した治療法を選択していきます。

 ⇩超音波画像診断による腎疾患の原因の一例

水腎症
水腎症

 

 

【治療について】

 

〜腎不全の治療の方法と付き合い方〜

 

腎不全の治療はいくつかあり、使用する代表的なお薬を下記に示しました。その子その子によってどのような治療をするかを以下のものから組み合わせながら治療していきましょう。


1️⃣:水分補充・・腎不全は進行すると脱水とそれによる循環血液量減少が生じます。水は体の細胞が営むためにも必要なものです。ステージと脱水具合に応じて静脈点滴or皮下点滴or自由水飲水を獣医師と相談しましょう。

※点滴は静脈、皮下と方法があるが、皮下と静脈は同じ点滴でも作用と期待できる効果が異なるためかかりつけの獣医師とその子の適性を良く相談してください。

 

2️⃣:食事療法(蛋白塩分リン制限)・・不器用になった腎臓の負担を減らすために蛋白制限やリン制限された食事をお勧めすることがあります。ただしあまり早期すぎる介入はお勧めいたしません。ある程度の蛋白質は身体にとって必要であるからです。蛋白質制限食に関しては蛋白窒素代謝の異常が見られる慢性腎不全の進行した段階をお勧めします。初期(早期腎不全)の食事療法はFGF-23と言うマーカーでPの代謝を調べ、それに異常が見られた場合リン代謝異常があると言う事ですからその場合は低リン食(リン制限食)から開始をオススメします。→何故リン制限が腎不全において必要になるかは下の【余談】のところで説明いたします。

 

3️⃣:吸着剤・・・本来腎臓が尿から体外に出しているリンや窒素が身体に溜まってしまうため吸着し体外に排泄する薬剤を用いた治療法です。

 

4️⃣:血管拡張剤・・腎内高血圧を抑えるためにACE阻害薬やARB阻害薬等を用います。ただし、高齢の症例やステージ4の症例では全身状態が良くても使用を推奨は致しません(適切な水和が使用の条件だからです)。

 

5️⃣:透析医療・・腹膜透析と血液透析がありそれぞれ利点と欠点があります。詳細は腹膜透析の項目参照ください。


6️⃣:利尿剤療法・・乏尿または無尿といった尿を作らなくなっている腎臓に対し尿の生成を促す薬を使用する治療法です。

 

7️⃣:その他・・他、状況に合わせ降圧剤、カリウム製剤や貧血の治療薬、食欲増進剤を合わせ用いる事もあります。

 

 

 

 

〜ステージによる治療法の選択〜

 

上に示した通り腎不全の治療には様々なお薬を使用しますがその子の腎不全のステージにより使用するものが異なります。

獣医師から伝えられた腎不全のステージがどれかに基づき、そのステージ毎の治療法を見ていきましょう。

 

◉急性腎不全の子

 急性期は積極的な点滴療法(1️⃣)や各種利尿剤療法(6️⃣)を行い、状況により透析(5️⃣)の介入を検討します。

 ・点滴療法→下記〜静脈点滴の方法〜を参照

 ・透析→腹膜透析

 

◉慢性腎不全ステージ1の子

 ステージ1と診断されたら予防的にACE阻害薬(4️⃣)の服用、定期的な血液および尿検査を行い進行がないかを確認していきます。定期検診の目安は3-6ヶ月です(その間に症状の変化がある場合は獣医師に相談しましょう)

 

 

◉慢性腎不全ステージ2の子

 ステージ2と診断されたら予防的なACE阻害薬(4️⃣)の服用と検査結果に応じた食事療法(2️⃣)を行い、定期的な血液検査および尿検査を行い進行がないかを確認していきます。定期検診の目安は2-3ヶ月です。(こちらも上記と同様にその間に症状の変化がある場合は獣医師に相談しましょう)

 

 

◉慢性腎不全ステージ3-4の子

 ステージ3-4と診断されたら状況によりACE阻害薬(4️⃣)を始め積極的な水和療法(点滴1️⃣)などを行っていきます。また2️⃣3️⃣も同時に必要です。安定後の定期検診は随時実施しますが頻度に関してかかりつけの獣医師と相談しましょう。

 

〜治療の流れ〜

ステージによって治療法が異なる事を説明してまいりましたが、どのような流れになるかを説明いたします。

 

・慢性腎不全ステージ1.2は原則投薬と定期検診で経過を見ていきます。その検査の都度、獣医師からその後について指示をうけます。

 

・慢性腎不全ステージ3-4と急性腎不全は1️⃣の水和療法を軸とした治療を必要とします。そのように診断された時、どのような治療の流れになるかを説明いたします。 

  〜静脈点滴の方法〜

 ・通院点滴法(8時間点滴法)

通院点滴法は朝から夜まで病院にいる時間だけ8hくらい静脈点滴を行う方法。夜はご自宅で過ごせます。

(長所)

・夜は家でゆっくりできる

・仕事の時間預けて治療可能

(短所)

・7日〜10日毎朝夜送り迎えの手間がかかる

・24時間点滴法より点滴時間が短時間なので効果がゆっくり

・心臓病や低蛋白血症などで場合によっては実施を控えたほうが良いことがあります。


 ・24時間点滴法
  24時間ずっと絶え間なく点滴を定速で続ける方法
  (長所)
   ・治療効果が通院点滴法より早い

  ・通院の手間が少ない

       (欠点)
           ・治療期間は家での時間が減る
   ・通院点滴法よりコストがかかる

 

 

 

 💉治療1日目

 ・入院して点滴の痛くないシリコン針を手に装着(留置針) 

 ・血液検査

 ・超音波画像診断

 ・夕方まで点滴して帰宅(通院点滴法:8時間点滴法)

 

 💉治療2〜6日目以降〜

 ・朝来院で入院

 ・効果測定の血液検査

 ・夕方まで点滴して帰宅(通院点滴法:8時間点滴法)

 

 💉治療7日目〜10日目

 ・朝来院で入院

 ・効果測定の血液検査

 ・点滴の留置針の入れ替え

 ・夕方まで点滴して帰宅(通院点滴法:8時間点滴法)

 ※この辺りまでの効果で下の2つへの変更判断

 ・改善で点滴を【通院点滴法⇒皮下点滴】へ

 ・反応不良で【通院点滴法⇒24時間点滴法】へ

 

 💉治療10日以降

  ◯24時間点滴法の方

  ・お預かりで5ー7日程度24時間点滴します。

  ・診療時間内のご面会は可能です。

  ・5ー7日静脈点滴行い効果を分析します。 

  ・それ以降効果に応じて皮下点滴を検討します 

  ◯皮下点滴の方

  ・通院できない方は皮下点滴を行います

  ・皮を持ち上げ注射器と針から皮膚の下に点滴液を入れます。

  ・頻度と量はその子によって変わります。

  ・定期的に血液検査を行い効果測定します。

   (けっかに合わせて点滴量と頻度を調整します)

 

 

〜治療中、検査は何がどのくらい必要か(目安)〜

 

①血液検査

◎皮下点滴治療中の方

治療導入初期は週2-3回

以降安定期で週1回〜3ヶ月1回

 

◎静脈点滴治療中

治療導入初期は改善が出るまで理想的には毎日

安定してきたら週2-3回

 

 

②尿検査(炎症や細菌感染や特殊な腎不全が無いかの判断)

・院内尿検査・・・尿は治療初めに1回

・UPC検査(stagingと薬の選択のため)

    尿蛋白クレアチニン比治療初期のみ1回

 

 

③超音波画像診断(尿管結石による腎不全や腫瘍による破壊の有無のチェックのため)

治療導入初期のみ一回(初回で何かあれば追加)

 

 

 

 

 

ひとこと

腎不全は非常によくある疾患で、その治療内容は個々により異なります。重度であれば入院24時間点滴や透析により救命をはかります。通院での管理が可能な子では点滴や食事管理といったことをやりながら定期的に血液に毒素が溜まっていないか確認し治療法の微調整を行い、その子のステージに、体質にベストのパターンを探していきます。

【余談】

 腎不全はなぜ悪化していくか。


①腎臓は主に体の水分を司る臓器です。(他にミネラルや造血に関係するホルモンも出します。)

腎不全になる⇒水分の切り盛りが不器用になる⇒身体に必要な水分も身体から出ていってしまう⇒血液の中の水分が減る⇒それを補うべく細胞に溜めていた水分を血管に補充して血液量を増やす⇒増やしても腎臓がザル状態なので水分が流れ出てしまう⇒細胞にも血管にも水が足りなくなる⇒腎臓自体にも腎臓の細胞に必要な血液が不足し腎臓の各細胞も傷み始める⇒腎不全が進みます。


②腎不全になると身体のミネラルの切り盛りが異常を起こします。具体的には腎不全→腎臓の濾過機能の低下→リンの体外排泄機能の異常により尿にリンを出しにくくなる→血清リン濃度上昇→上皮小体というカルシウムやリンを調節しているところからPTHというホルモンをたくさん出す様になり腎性2次性上皮小体機能亢進症を起こす→血中カルシウム濃度上昇→石灰化→血管がフレキシブルでなくなり腎不全進行する。

 

このメカニズムを頭に入れて治療に向き合う事で理解を深める事ができます。

 

もう一点大切なことは、

③腎不全が他の病気によって引き起こされているものかorそうでないかという点です。例として感染症、歯周病、薬剤(ステロイドやNSAIDsなど)、高血圧症、低カリウム血症などがありこれがあるか無いかを判断していくことが治療の効果を出す近道でもあります。歯周病はそこから発生する細菌毒が腎臓障害を、低カリウムは脱水を助長することによる事に由来します。

 

【治療】

 

 腎不全と獣医師より診断されたらまず急性か慢性かどちらのタイプなのか効きましょう。

 

 

急性腎不全・・5️⃣+1️⃣必要に応じて2️⃣3️⃣4️⃣

 

慢性腎不全・・ステージにより異なります。

 stage1:ACE阻害薬

 stage2:ACE阻害薬+低リン

 stage3:ACE阻害薬+低リン+低蛋白+輸液+α(貧血、消化器症状の有無)

 stage4: (ACE阻害薬)+低リン+低蛋白+輸液+α(貧血、消化器症状の有無)+尿毒症対策