壊死性脳炎(NLE)

MRI1回目
MRI1回目

 2歳トイプードルが3日前からテンカン様発作を起こしていると来院され、当院獣医師より診断および治療依頼を受けた。左前後肢の関節の深部感覚障害、視野部分欠損、旋回歩行、睡眠障害、軽度項部固縮が見られたため急速に進展する脳炎等による視床障害を疑い、脳減圧療法+免疫抑制療法を緊急で行いMRIおよびCSF(脳脊髄液検査)を行った。結果、視床への広範囲な脳炎で抗アストロサイト自己抗体陽性であったため壊死性白質脳炎と診断した(左図の白い部位が炎症部位)。

 通常、予後不良(死亡率が高い)疾患であるため飼い主に積極的な新規治療法を勧めたところ同意いただけたため三カ月にわたる集中治療を行い再度MRIを確認した。

 

2回目のMRIで病変は95%以上消失していた。また通常、炎症部位におこる脳軟化→空洞化が抑制させる事に成功し、かつ完全な再生を見た(下図)。

定期健診に来院された時。お父さんの足の間で完全復活をアピールしている。


第四脳室拡張症

チワワにみられた第四脳室拡張症を紹介いたします。症状は体のふらつきと痙攣でした。PrimaryとしてTCD(経頭蓋超音波カラードプラー検査)で各脳室拡張(第3、第4脳室拡張)とクモ膜のう胞が確認された。またRIを確認、ECG(心電図)により徐脈を確認しICP上昇に対し、脳圧降下療法とGABA受容体作動薬療法にて治療し元気に歩けるようになった。後日MRIにて再確認した。現在は脳圧管理のお薬を内服するのみで以前にまして元気になった。

治療後の元気な姿
治療後の元気な姿

GME(肉腫性髄膜脳脊髄炎)

他院にて頸椎ヘルニアと診断を受け、何件か動物病院を回った結果、紹介で当院を受診。診察で項部硬直という頸部痛に一見にている危険な症状(髄膜刺激症状と呼ばれる)を確認した。神経学的検査、血液検査、超音波エコー検査を実施。神経学的検査では項部硬直、左深部覚障害、視神経乳頭浮腫、非常に軽微な瞳孔不同、Circling(大旋回)、頭部下垂、Head Pressing、微妙なミオクローヌスという不随意運動がみられたため、年齢と犬種、経過も考慮し大脳白質~側頭葉を主座とした慢性進行性病変(特にGME、髄膜腫等)が想定される状況と判断した。また帯状回ヘルニア初期の様相もあったため、緊急で脳圧降下療法を実施した後、MRIを即日実施。画像所見では大脳(前頭葉、側頭葉、後頭葉)全域にT1で等~低信号、T2&FLAIRで高信号、一部造影の入り込む領域というGMEに特徴的な画像所見を確認した。脳圧が高くなりすぎている状況であったためCSF採取および検査は再検査時に行うこととした。現在、免疫抑制剤療法を実施し、神経症状は完全に消失し、元気に通院している。

MRI所見。大脳全域における病変が確認出来る。また炎症は海馬にも達しており、難治性てんかんの発生にも注意が必要な事を示唆している。

 

治療開始後4日後。起立可能になり、生活も元通りできるように回復した。

MRI2回目。前回撮影から1か月後に実施。前頭葉に見られた広範囲な病変(右の画像)が今回の画像(左の画像)では縮小していることが分かる。

治療開始1か月後、元気に来院され、発症前得意だったハイタッチの芸をまた出来るようになった所を飼い主さんと得意げに診察室で見せてくれた。


クモ膜嚢胞による徐脳固縮

突如、起立不能および前肢後肢伸展となったシーズー12歳が緊急搬送されてきた。来院時徐脳固縮に加え、瞳孔散大、対光反射(-)、中枢性過換気とよばれる神経原性の呼吸速拍(神経病で発症する呼吸が速くなる状態)を呈していた。中脳障害を主とした症状である状態であり、急性脳圧亢進状態として水頭症急性増悪や脳出血、脳梗塞などが想定される状況であった。胸部超音波画像診断で心弁膜症も確認されたため緊急脳圧降下療法に血管拡張療法を並行して行い1時間後に起立可能となった。MRIでは後頭葉ー小脳間にクモ膜のう胞の形成が確認された。現在内科療法で再発なく散歩中に元気な姿を見せに来院されている


小脳梗塞

沖縄から転院してきたプードルだった。一か月前に起立困難となり近医にて脳腫瘍と仮診断され治療されていた。当院来院時、企画振戦と軽度体幹性運動失調がみられ、小脳虫部の片側性障害が疑われた。血管拡張薬および消炎剤療法およびSSRI療法を行った。MRIでは小脳梗塞病変が確認された。現在は症状は一切消失している


頸部脊椎狭窄症

頸部脊椎狭窄
頸部脊椎狭窄

救急時代の症例。突発性の前肢の硬直に四肢感覚障害、後肢不安定歩行、頸部痛を呈し来院された。神経学的検査により上記症状およびレントゲン撮影により頸椎2-3および4-5に狭窄がみられた。primary careとして内科的脊髄減圧療法および頸部外側固定を行った。狭窄部位に対するMRI,CTの必要性があるため、尾側頸椎症状もみられたためその確認も同時に行い、外科的ケアー(腹側スロット等)を検討するように掛かり付け病院に伝えた。


免疫介在性脳炎

2歳のウェスティーが発作を起こし、かかりつけで一週間ほど治療したが治らず、一晩14回の群発発作から翌朝テンカン重責に陥り、当院に転院してきた。発作型から前頭葉の脳炎を疑いMPSSパルス療法を行い、翌日MRI検査センターで撮影を行ってもらった。CDV(犬ジステンパーウイルス抗体価)が血清で超高値でCSF(脳脊髄液中)は低値であった。治療後の追加MRIでは病変消失していた。その後一度も発作なく現在も元気に健康診断に可愛い姿を見せてくれている


脊髄空洞症

キャバリア9歳、手足の感覚障害の診断のためMRIを実施。脊髄空洞症による脊髄中心症候群と判断した


変形性脊椎症

背部痛で偶然発見された変形性脊髄症。老犬によく出る所見であり、下方ブリッジと呼ばれるものは直接神経症状を出さないことも多い。写真準備出来次第UPいたします。


変性性脊髄症(DM)

Wコーギ♀8歳が後肢の振えを主訴に来院。神経学的検査法では病変部と思われる部位の所見と不一致があったためDMを疑い、MRI、筋電図、遺伝子検査を実施したところ、DMである可能性を強く示唆した。左図はその時の筋電図所見。DMは上記のNLE,NME,脊髄空洞症と並ぶ神経難病の一つである。現在治療中。経過は順調であり、足の麻痺、後ろ足の振え等は激減しているようである。


脊椎狭窄症

ソファから飛び降りてからビッコを引くようになったシュナウザー12歳。整形外科的疾患、神経学的検査を行ったところ神経学的検査で異常徴候をみた。痛みの部位を特定し、超音波ガイド下TPB法(痛みを起している部位に対する神経ブロック)を行い改善をみた。その後はまた痛みを起さないように消炎鎮痛剤で一定期間経過をチェックした。


馬尾症候群

1歳ビーグル♂、先日散歩中に他の散歩仲間と激しく遊んだ後しっぽが上がらなくなった。排尿排便時によろける。神経学的検査および整形外科的疾患検査を行い、尾部の神経脱落徴候がみられた。写真は尾部下垂している様子。内服薬治療で治癒した。

内服治療開始後、3日後の再診時写真。しっぽを元のようにあげられるようになった。


小脳梗塞

突然頸が曲がり立ち上がれないを主訴に来院された6歳ボーダーコリー♂。神経学的検査から中枢性前庭症候群(上小脳脚)が疑われ、かつECGや血液検査および症状の成立時間から脳梗塞をうたがった。脳出血症状を伴わなかったため、即日血栓溶解療法および脳圧降下療法を行い完治した。後日MRIを行い、左写真のように小脳に梗塞後病変をみた。


両側ホルネル症候群

両目の異常を訴えて来院されたビーグル11歳♂。昨日より写真のように両目の瞬膜(第三眼瞼)が突出し、瞼が下に垂れさがった状態になった。両側のホルネル症候群と呼ばれる状態であり、主な原因に脳幹病変(脳の生命中枢近くの病気)、頸部~胸部の動脈瘤や自律神経異常など様々である。診断のポイントはっこの症状に他の隠れた症状が存在するかである。オーナーとの相談の上、投薬による経過観察を希望されたため、内服薬を処方した。

一週間後の再チェック時。完全にホルネル徴候は消失した。


KBSを併発したSE(てんかん重積)

ミニチュアピンシェル9歳♀。以前から当院かかりつけであり、AIHA(自己免疫性溶血性貧血(抗核抗体陽性))罹患歴あり。ここ三年間てんかんを起しており、年間3~4回は薬物療法でもテンカンが止まらないSE(てんかん重積)を起し、年平均2~3回は入院しているようであった。

私が当院に赴任したときに当院獣医師より治療薬選択を依頼された。その後詳細検査させていただいた結果、MRI異常なし、抗核抗体陽性、LDH4isozyme欠損症、免疫泳動でM蛋白血症であることがわかった。さらに追加検査によりM蛋白血症はIgMによるものであることが判明し、尿中蛋白分画からB蛋白は確認されず、リンパ球表面PCRでも異常増殖をみせる白血球が確認できないことから、特発性M蛋白血症であると診断した。また発作様式はFrontal lobe型であるもののときおりTLE(側頭葉型発作)も呈している。てんかん発作によるものと思われるクリューバービューシー症候群も併発していた。 現在多剤AEDs療法によって発作は完全に起さなくなっている


猫のシフ・シェリントン姿勢

外で子猫が倒れているのを見つけた近所の方が当院に緊急搬送した。この子猫は一見すると危篤状態の脳疾患に類似する姿勢に見えるが、脊椎疾患でみられるシフ・シェリントン姿勢と呼ばれる症状である。緊急脊椎減圧を行い、半日で歩けるまでの機能回復をした。その後、後遺症も一切なくなり、元気に里親(保護された方の両親のおうち)にもらわれていった。


犬のシフ・シェリントン姿勢

5日前から前足をビッコ引くようになり、今日起立不能になったというミニチュアピンシャー8歳が来院した。神経学的検査では前肢の伸筋亢進と後肢反応の低下&感覚障害&DTR亢進からUMNが疑われ、かつ中枢神経徴候と姿勢異常意識レベルの状況から当姿勢異常をシッフシェリントン姿勢と診断し、緊急脊髄減圧療法、MPSSパルス療法を行った。

前方からの写真。前足が突っ張っているのが分かる。

レントゲン所見。胸椎(T1~2)の変形性脊椎症および肺の不透過像が見られた

治療6時間後。起立可能となり、前足の硬直、後ろ足の麻痺は消失し、元気に走れるようになった。

治療開始から約1週間経過。歩行に異常を感じる事なく元気に毎日を送れるようになった。


椎間板ヘルニア

7歳ダックス♂。昨晩から急に歩けなくなったと来院。両後肢不全対麻痺。深部痛覚もほぼなく、浅部感覚も減弱している。前脛骨筋反射&腓腹筋反射&膝蓋腱反射等の後肢DTRに異常がある。また坐骨神経反射は保存されている。擬性LMNsを検出するためLordosis Test、会陰反射を行ったが正常であった。本日より治療開始。

内科治療開始5日後。両後肢とも起立歩行可能となった。


向反症候群

12歳シャムネコ♂。昨晩より同じ方向へクルクル回っていると来院。神経学的検査の結果、猫の向反症候群と診断した。猫向反症候群は大脳視床~前頭葉にかけての病変であることが多く、原因としては脳梗塞、脳血栓、寄生虫性、腫瘍性疾患などが多い。集中的血栓溶解療法を用い完全に症状改善に至った。

治療二日後、完全に自分の意思と同じ方向をむける、歩けるようになったため、通院しながらの経過治療が可能になった。


奇異性前庭症候群

他院より脳血管病治療の依頼が来たため出張治療した。三日前から右に頸が傾き、左に転倒うるようになった様子。目の揺れ、左前後肢に麻痺がみられ奇異性前庭症候群と診断した。MRI画像を見ると右小脳虫部~片葉にかけての梗塞病変が認められたため、画像の特徴から発生後3日程度の脳底動脈分枝のSCA(上小脳動脈)梗塞と判断し、脳底動脈~頸部~心臓のカラードップラーを入念にチェックさせた後、ECGと血圧をモニタリングしながら血管拡張および血栓溶解療法等を行った。当初、頭を起き上がらせる事も不能であったが、治療開始2時間後、起き上がれるまでに回復をみせた。その後治療法と、チェックポイントを担当獣医師にお伝えし、治療を継続してもらっている

治療開始2時間経過後、頭を起し、食事に興味を示しだした。


椎間板ヘルニア

6才ダックス。昨晩急に後肢が麻痺したと来院した。神経学的検査で重度な後肢神経麻痺および神経因性排尿障害(排尿不能)を呈していたため、症状から椎間板ヘルニアを疑い、即日MRIを実施した。L4~7間に多発性腰椎ヘルニアが見られた。MPSSパルス療法および脊髄減圧療法を行ったが改善乏しかったため、並行して理学療法(TENs)を行った。

治療2weekでほぼ起立や自発的排尿が完璧に可能になったが、左後肢の軽度麻痺が残っているため、理学療法を継続している。


脳梁低形成


猫の前庭症候群


犬の特発性前庭症候群


犬の中枢性前庭症候群


犬の奇異性前庭症候群


水頭症

2歳チワワ 、後肢の感覚障害を主訴に来院し、神経学的検査と頭部エコー検査から水頭症が疑われたためMRIを実施。脳室が重度に拡張しており脳室拡張症と診断し、脳圧管理を開始すると見られた神経学的異常は消失した。

大脳症候群

古典的には大脳に障害がある総称。通常歩行は出来、意識レベルの低下、サークリングや重度ではヘッドプレスなどの異常な運動、病変側と反対の手足の感覚障害や姿勢反射の異常を見ることが多い。
原因は前脳で起きる疾患ならばなんでも起こりうる。頻度が多いものとしては水頭症、脳腫瘍、肝性脳症、古典的には猫虚血性脳症などが多いが血行動態的疾患でもよく見る。また神経学的異常(外観的行動異常)で視床下部や間脳領域の疾患は時として本症候群と類似した症状を見せることがあるため鑑別と注意が必要です。
この子は17歳パピヨンで慢性に発症し、前脳皮質の巨大血腫病変であったため、脳圧亢進を抑えながら2ヶ月以上の長期の治療中である。


NME(壊死性脳炎)


くも膜嚢胞


脳出血


外傷性脳挫傷


グリオーマ


末梢性ニューロパチー


CDS(犬認知機能障害)


中枢神経型リンパ腫

猫のリンパ腫。主訴は食欲不振、歩行異常。

身体検査と神経学的検査では片麻痺、軽度意識障害、頭位回旋が見られMRIでは左髄膜領域の肥厚と造影増強が見られた。

抗がん剤に非常に良く反応し、MSTを超える期間寛解を見せている。

多発性神経根炎

ミックス犬が前肢の跛行を繰り返し、他院で治療しても再燃したため来院された。

神経学的検査から末梢神経および神経節後病変を疑いMRIを実施。T1等、T2高、造影増強を示し神経節は両側性に腫大していた。

オーナーの了承同意のもと神経根炎の仮診断の元に試験的ステロイド、免疫抑制剤療法を行い、2ヶ月の段階で完全な寛解をみたが、投薬を中止するとすぐに再燃し再度投薬を開始に来院された。最終的に免疫抑制剤単剤での維持で再燃はなく過ごしている。