9歳チワワ♂。一週間前から左側腹部に1㎝大の脂肪のかたまりのようなものが出来たと来院。バイオプシー検査(針で細胞を採取し、細胞を顕微鏡で見る検査)を行ったところ、肥満細胞腫が疑われたため、翌日手術により摘出し、病理検査で『肥満細胞腫GradeⅡ』であったため、分子標的薬による今後の治療を考慮し、遺伝子検査(c-kit検査)を実施した
切除後の患部。術後再発なく、10日後に抜糸した。
日本猫9歳。当院獣医師のもと治療したものの完治せず、治療を依頼された。発生部位と検査所見を考慮し、外科的切除をお勧めし、病巣切除後、病理診断を実施した。
手術の様子。腫瘍性疾患の可能性を考慮し、病巣から大きなマージンを設け、かつ顔の変形をおこさないような切開ラインを形成し実施した。
手術直後の皮膚切開縫合創。痛々しいが、この後、顔の変形も再発も起さず、経過良好であった。術後1週間はエリザベスカラーで手術創の引っ掻きを予防した。
術後の再診(1week後)の外観。ほぼ傷は治癒し、顔の変形はない。
10歳シェルティー♀。血尿を主訴に来院された。当院獣医師による精査の結果、膀胱に腫瘤様陰影が確認されたため、部分膀胱切除術を依頼された。
超音波画像診断により確認された膀胱背側面の腫瘍様陰影。
下部腹部正中切開により開腹し、膀胱を露出したところ。この後、術後管理を考慮して無菌的膀胱穿刺を実施し、採取された尿に対し、尿菌培養検査および、薬剤感受性試験を実施した。
膀胱腹側正中切開を行い、背側面にある腫瘍を目視下で確認したところ。
角度を変え、腫瘍の浸潤度合いを確認し視覚的サージカルマージンを決定する。この膀胱内腫瘍は膀胱三角部に達しており、右側尿管の切除を余儀なくされた。
膀胱粘膜を反転させ、腫瘍の形態を確認しているところ。腫瘍は乳頭状に隆起しており、縦横幅が5cmほどあったため、相当な膀胱面積の切除が必要であった。
切除後、左尿管開口部から尿が排泄されてきていることを確認。右側尿管は膀胱近位にて切除を行ったあと、膀胱三角部の遠位に尿管幅の3倍程の膀胱筋層下フィステル形成を行った後、6-0モノフィラメント吸収性縫合糸を用いて右側尿管と膀胱粘膜に対し、尿管再建術を行った。
その後、残せる膀胱に対し、4-0モノフィラメント吸収性縫合糸を用い膀胱漿膜から粘膜下織までの単純結紮縫合、3-0モノフィラメント吸収性縫合糸を用い膀胱漿膜に対しレンベルト縫合を行い、膀胱を形成した。その後、腹腔内洗浄を行い、定法に従い閉腹し、術後24h以上尿道カテーテルを留置した。切除された膀胱組織は病理組織検査を行い、抗ガン剤の使用を考慮して、遺伝子検査(MDR1)を行った。後、飼い主様との相談の結果、抗ガン剤を使用しない移行上皮癌へのアプローチを希望されてため、移行上皮癌に有効なNSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)を内服している。現在、血尿もなく非常に良好である。
ラブラドール12歳♀。耳介尖端に形成された腫瘍。オーナー様(当院スタッフ)が発見され来院された。術前検査異常なく、麻酔下剃毛し、マージンを決定している所。
切開領域確認後、メスにて耳介皮膚へ切開ラインを入れ、鈍性剥離する。術前バイオプシーで良性のものは下マージンは軟骨手前で良いが、悪性である場合は耳介軟骨までマージンとして切除するべきである。
腫瘍がマージンとともに切除せれたら耳介皮膚と軟骨をモノフィラメント非吸収性縫合糸にて結紮する。
切開部位全周にわたり同様に単純結紮縫合を行う。術後肉芽が盛り上がってくるため、抜糸の事を考慮し、縫合糸は長めに残した方がよい。
16歳シェルティー♂。頻繁に後ろ足が動かなくなり来院。機能検査を実施し、心臓疾患を疑い、心臓超音波検査を実施したところ、右心房壁に3cm大の腫瘍様構造物が見られた。オーナーに予後の良くない心臓血管肉腫の可能性、生存期間は一カ月以内である事が多い事等について説明し、各種治療を提示したところ、保存療法を希望されたため、心タンポナーデ発症時は特殊治療を行い、癌性血胸に対し自家輸血を実施した。
経過中に頻発した出血性心タンポナーデに対し、心嚢穿刺術および特殊治療を実施している光景。その後、力尽きる最後まで心タンポナーデを発症することはなかった。
各種保存的治療にて4カ月生き抜いた。その後、腫瘍による大静脈破裂および出血性DICを呈し、精査のため肋間開胸術による剖検を実施した。開胸すると心臓のむならず、肺全面にまで画像に映らない腫瘍転移が確認された。
摘出した心臓の外観。腫瘍の広範囲にわたる浸潤が確認される。病理組織検査の結果『血管肉腫』であった。最後まで全く苦しむことなく、また精度を高めた支持療法の追及により、発症確認段階から4カ月もの期間、日常生活を普通に家にて送る事が出来た事は今後の医療に大きな可能性を与えてくれる雄姿であるとともに、この子に会えた事、一緒に戦う事が出来た事を誇りに思っている。
顔に腫瘍を発見してから1年経過し、次第に腫大し、出血を繰り返すようになったため、外科切除を希望し他院2件を受診。切除は部位と大きさから困難と断られ当院を来院したMダックス15歳。来院の段階で腫瘍は下瞼~口角に達していたため、有茎皮弁形成術に眼瞼再建矯正術を提示し、実施した。
顔のうち、血管および神経が他部位に比し少ない外眼角から切開ラインを入れ、慎重に剥離を実施した。腫瘍は顔面神経および顔面静脈を巻き込んで成熟していた。顔面神経を切除すれば顔が動かなくなり、形成上、生活の質の影響を及ぼし、オーナーが希望されているQOL(生活の質)を保てなくなるため、精密な手法を重ね顔面神経を完全に温存し、腫瘍を摘出した。
温存された顔面神経。
その後、顔面横動脈から有茎皮膚移植を実施し、腫瘍切除により生じた眼瞼のゆがみをシマノフスキー変法眼瞼再建術により矯正した。
15歳トイプードル、一カ月前より詰めに腫れがあり来院。FNAを実施し悪性黒色細胞腫であったため早急に手術を実施。悪性メラノーマは周辺リンパ節や肺をはじめとする臓器転移を起こし易く発見時の転移は半数を上回るという非常に転移性の強い腫瘍である(参考に皮膚メラノーマは8割程度が良性、眼球のメラノーマも通常良性で境界明瞭で小さいものは経過みていくが大きくなるなら摘眼したほうが良いです。口腔内と爪床、瞼以外の粘膜移行部に発生したものは悪性が50%です)。術式は年齢とQOLからオーナーと相談の末、局所コントロールの目的でかつ脚の温存を希望されたため指の第三関節までの断指術にて実施行った。翌日から散歩するほど元気に生活している。術後定期経過観察来院をすすめ現在所属リンパ節転移確認されず他部位への転移巣は確認されてなく良い老後を満喫している。
当院では爪床メラノーマ術後の患者様へは術後二週間目からカルボプラチン、長期再発予防を目的として分子標的薬のトラセニブによる治療を実施している。
上記良性悪性の判断はまず動物病院を受診して、心配な箇所の細胞診(FNA)を実施してもらい顕微鏡で腫瘍の種類を判断してもらいましょう。良性メラノーマは通常境界明瞭で濃く直径2㎝未満のドーム状、悪性メラノーマはサイズが急速に成長し2cmを超えたり出血をおこしたりすることが多い。仮にメラノーマの悪性と診断されたら転移の有無を画像診断を実施してもらい、治療の第一選択として外科手術、術後抗がん剤、かわりに抗がん剤や放射線療法という方法を相談してみましょう。良性で完全に取り切れていれば完治を見込めます。悪性メラノーマでは転移が30-75%とデータがまちまちです。メラノーマに対する外科切除は根治及び局所の出血などの緩和を目的として行いますが腫瘍の特性から転移が起きやすいものです。そのため補助的化学療法は実施されるのです。
他院より肛門嚢腫瘍の疑いで紹介されてきたトイプードル12歳。
触診で右側の肛門嚢にしこりが触知されたため超音波画像診断およに針生検による細胞診を実施した。病理組織の結果アポクリン腺癌疑いであったため治療法の選択のため精密検査を実施した。
全身麻酔下で実施したCT胸部および腹部では遠隔転移を疑う所見は認められなかった。
また肛門嚢付近の領域リンパ節も腫脹が見られなかったため肛門嚢アポクリン腺癌ステージ2として治療法を手術、放射線、抗がん剤(化学療法)、他を提示した。本症例では外科切除およびステージ2は局所再発や転移が起こりやすいステージである事から術後化学療法を実施する事とした。
手術は全身麻酔下、肛門周囲の剃毛、消毒を実施。肛門に巾着縫合を行い術中の便の排泄を抑えます。
肛門の横の皮膚を縦に切開し、肛門嚢と外肛門括約筋を露出します。肛門嚢は筋肉の中に入っている事多いため、腫瘍化した肛門嚢の被膜を傷つけないよう丁寧に剥離を実施します。
腫瘍化した肛門嚢周辺の組織を分離出来たら肛門嚢を摘出します。
摘出された肛門嚢。
肛門嚢の手術は術後血便やしぶり、排便障害などがありますが多く執刀していると意外と直腸穿孔や会陰ヘルニアも多い印象です。この症例は肛門嚢腫瘍が直腸にくっついていたため術中直腸穿孔を起こしたため、直腸穿孔部を再建し、また会陰ヘルニアに対し仙結節靭帯と外肛門括約筋を軸とした会陰ヘルニア整復術も同時に実施いたしました。
術後は二週間後からCBDCA(カルボプラチン)による術後化学療法を三週間毎実施しているところです。
口腔に黒い腫瘍が出来た事を心配され来院。鎮静下でブロック生検を実施しました。
病理組織検査の結果、口腔内メラノーマであったため、転移の有無の評価のために改めてCTを実施しました。
CTの結果画像診断上、転移は見られないため本症例は口腔内メラノーマstageⅡと診断しました。口腔内メラノーマは発見に全体の57%の症例で腫瘍があごの骨まで入り込んでいることがあるため、本症例は下顎骨両側の切除および領域リンパ節覚醒を実施しました。
全身麻酔下、粘膜と顎骨を分離、切除する顎骨ラインまで顎骨に切開線をいれマイクロエンジンにて顎骨を下顎管まで切除しました。
下顎槽の中にある血管を結紮分離して腫瘍を含めた顎骨を摘出します。
この手術で大事な点として唾液腺の処理も行います。唾液腺の処置を行わないと術後の口周りの涎に一苦労するからです。
メラノーマと顎骨の摘出が終わったら粘膜と皮膚を形成します。
其の後、リンパ節の摘出を実施し、食道カテーテル(術後しばらく食事を食べない事があるため)を設置します。
摘出された病変。病理組織検査で口腔内悪性黒色腫でした。マージン(取り切れているか)は十分という結果でした。
摘出されたリンパ節。このリンパ節はCTで軽度腫大が確認されていましたが病理組織検査で腫瘍の転移はありませんでした。現在フィーディングカテーテルを外し、液状フードを自ら食べるまでに回復しております。
14歳日本猫が一カ月前から鼻水、くしゃみ、目ヤニ、時折鼻から出血、食欲低下が見られる事で来院されました。
外観から軽度の鼻から眼にかけての変形がみられ主訴から鼻腔内腫瘍の可能性を考え、血液検査やレントゲン撮影などを実施いたしました。
スライドガラス法では左の鼻閉が確認され、レントゲン画像診断で左鼻腔内が白く、透過性が落ちていました。
そのため腫瘍性疾患を確認する目的で頭部CTを実施、腫瘍が疑わしい場合鎮静下での鼻腔ストロー生検を実施する治療計画としました。
リンパ球クローナリティー検査の結果、B細胞(リンパ球の一種)の腫瘍性増殖が確認されました。
各種診断から『鼻腔内リンパ腫ステージ1』と診断し、高齢であること、腹腔内転移所見がない事から放射線療法を実施する事とし、実施可能な放射線装置をもつ施設での治療を行うプランを立てました。
プランとして鼻腔に対する8Gy×3日間(合計24Gy)の定位放射線療法を実施しております。